[雑記]不摂生。

2007/3/13 火曜日

人生二度目の貧血を経験したり身体のバランスがだだ崩れしたりとちょっと不摂生がたたっている御月ですこんばんは。
睡眠時間の短さと、食事の不規則さが原因だとわかってはいるんですが…まぁ、原因がわかっているからといってがっちり対処できるかというとそういうものでもないようで。仕事が減ればもうちょっとまともな生活ができるんでしょうが、その分財布に直結する職業ですから。何時の日か仕事をしなくても悠々自適の生活ができるといいなぁ…。

……ベンチャーって、基本的にあれだ、「プライベート? 休暇? ナニそれ?」でやってかないと、軌道に乗せれないと思う…。

 

ちなみに、先日の小話は、以前から地道にこつこつ書き溜めていたものです。一日でいきなりあれだけ書いたわけではありません。残念ながら。
連載のものも地味~に書き溜めてるんで、ある程度まとまったところでお披露目していきたいと思ってます。なんかなー、長いことかけて書いてると、矛盾が出てきてヤなんだよなー…。

 

 

拍手お返事。
5日22時:ありがとうございます! 意外と中身が無いのであっという間に見終わってしまうかもしれませんが…楽しんでいただけると、わたしもこっそり嬉しいです♪

[小話]風邪引きさんの幸せと憂鬱。

 げほげほ、と咳をして、ぼんやりと目を開けると、天井がそこはかとなくゆがんで見えた。今までまっすぐだった天井が急にゆがむわけはないから、熱のせいだろうとヒューゴはぼんやり結論付ける。
「……しんど……」
 ベッドに寝ているだけなのに身体中の関節が痛くて、なんだかベッドに無理やりくくりつけられているかのような不自由さを感じる。わけもなく泣きたくなって、涙を堪えるために、そっと目を閉ざした。
 しん、と静まり返った部屋は、間違いなく自分に与えられた部屋だ。他人のものではない。ビュッデヒュッケ城で寝起きするようになってそれなりの時間が経ち、他の誰でもない「自分の」部屋という感覚が、大分なじむようになっていた。けれども、あんまりにも今は静か過ぎて、世界にただひとり自分だけが取り残されたような、妙な孤独感が身に沁みる。
 本当にここは自分の部屋なのだろうか。先ほどまで見ていた、歪んだ夢の中のままなのかもしれない。灰色の。誰も居ない、何もない、ただ四角くてぎしりぎしりと押しつぶされる、夢。そんな世界。
(誰、か)
 誰でもいい。何でもいい。静か過ぎて耳鳴りがしてくるような気がした。誰か傍に居てくれたら、ここが夢の中ではないことを信じられるのに。
(助けてクリスさん)
「ヒューゴ、調子はどうだ?」
 不意に聞こえた声に、はっと瞠目する。視線の先、かたりと扉を開けてやってきたのは、ヒューゴが望んだ人だった。あまりにもタイミングが良すぎるから、やっぱりこれは夢なのかもしれない。
 ……夢でもいい。同じ『夢』でも、さっきまでの夢とは大違いで、こんな夢だったら怖くない。
「ああ、無理に起きなくてもいい」
 すたすたといつもの調子で歩み寄ってきたクリスが、手をぺたりと額に押し当ててきた。ひんやりとしたてのひらの感触がひどく気持ちいい。
 剣を握る手らしく、少してのひらの皮が厚いけれども、その手は優しくヒューゴの額に触れている。クリスらしい、不器用な……けれど率直な優しさが、ヒューゴは好きだった。てのひらから直接伝わってくる優しさが、ヒューゴの中の何かを少しずつ浄化していってくれるような、そんな気さえしてくる。
「んん、まだ少し熱があるようだな」
 ひょいと手のひらが遠ざかる。不意に訪れた空白が予想外に淋しくて、思わず小さく声を上げてしまった。途端ににこりとクリスが笑う。
「大丈夫、わたしはここに居るよ。心配しなくていい」
「……ごめん、ね……」
「そこは謝るところではないだろう。風邪を引いたときは淋しくなるものだからな」
 ふふ、と小さく笑うクリスに、そうっと手を伸ばすと、優しくぎゅっと握られた。
(大好き)
 どうして孤独だなんて思ってしまったのだろう。自分には、クリスが居る。世界にただひとりなんかじゃない。だからきっと、また眠っても怖い夢は、見ないはずだ。それに、もし夢を見たとしても、てのひらから伝わる熱が、きっと導いてくれる。
「お粥を持ってきたんだが、どうする? 今食べるか? あ、安心しろわたしが作ったものじゃないからな」
「……あとで……。クリスさんの手作りがよかったな……」
「さすがにソレは……ヒューゴの風邪が悪化すると困る」
 うつらうつらとしながら応える。花びらのようにふわりふわりと降り注ぐ柔らかい声が嬉しくて、もっと話していたいのに、少しずつぼんやりと世界の形が滲んでいく。水に溶ける塩のように、あるいは漣に浚われる砂のように、少しずつ、少しずつ。
(今度目を開けるときは、きっと元気になってるんだろうな)
 根拠は無い。けれど、クリスが居てくれているのなら、それは間違いの無い未来のはずだ。
 そうして、ヒューゴはゆっくりと眠りに就いたのだった。

 

 げっふげっふ、と豪快に咳(と唾)を撒き散らかして、ジンバは目を開けた。ぐるりと辺りを見回すと、何時の間にやらなじんだ風景が広がっている。ビュッデヒュッケ城の中に与えられた自室は、何の偶然か何十年も前と同じ場所だった。先ほどまで居たはずの医者の姿が見当たらないのは、同時期に大量発生した風邪引き病人の世話に駆けずり回っているからだろう。当たり前と言えばそれまでなのだが、あちこちから集った者達にとって、ビュッデヒュッケ城近くの気候が辛いこともあったに違いない。気温の変化や食生活の変化など、所変われば随分と変わるもので、身体がそれに順応するにはやはり相応の時間はかかるし、故郷に比べちょっとした気の緩みなどで病を得ることだって珍しくは無い。
 とはいえ。
(風邪か~……)
 それがわが身に降りかかるとなると、ちょっと感慨深いものがある。生来の図太さのおかげか、風邪どころかどれほど劣悪な環境におかれても腹ひとつ下したことはなかったのだ。よほど今回流行している風邪は強力なものに違いない。
「……ジンバ、起きたか」
 妙齢の女性にしてはやや柔らかさに欠ける声音が降って来て、ジンバは慌てて起き上がった。途端にくらりと眩暈がする。腰の辺りやら膝の辺りやらが痛いのは、年のせい……ではなく、風邪による発熱のためだろう。
「調子はどうだ?」
 絶好調とは言い難い、そう応えようとしたが、出てきたのは言葉ではなく先ほどにもましてひどい咳だった。痛ましそうに眉根を寄せたクリスが、短くジンバを制止する。
「……無理に応えなくてもいいんだぞ」
「すまん」
 風邪を引くなんて何年ぶりだろう。病弱だった妻とは違い、頑丈に生まれ頑丈に育った自分は、あまり風邪などには縁がない。その分慣れていない、ということだろうか。ついうっかりいつものように動こうとして、体がついてこないのだ。
 それにしても、と思う。
 さほど自分とは仲が良くない……どちらかというと、微妙に距離を置かれているクリスが、わざわざ自分の見舞いに来るとは、どういう思惑だろうか。またもや咳に見舞われないよう、今度は気をつけてそろりと言葉を紡ぐ。
「……何か、用か?」
「この前、風邪を引いたら見舞いに来て欲しい、といっていただろう?」
「それだけで?」
 義理堅いクリスに、思わず笑みが浮かんだ。そんなもの、社交辞令として流してしまえばいいのに、それをしないあたり素直というかなんと言うか。 そういえば昔から約束はきちんと守るいい娘だったものなぁ、と思う。
 不器用といわれる割には慣れているのか、クリスは手際よく冷水に浸した布をきゅっと絞る。ぺたりと額に乗せられると、冷たいその感触が気持ちよすぎて、思わずほうっと溜息が零れた。
 もしかしたら、と思ってしまう。
 家を出ず、ずっと娘と妻と暮らしていたら。こんな風に看病してくれていたのかもしれない。お父さん、なんて呼ばれて。「きちんと毛布をかけないから風邪を引くんでしょ」なんて、時には文句を言われながらも、看病をしてくれて。暖かい家庭の中で暖かい食事とともにゆっくりと病を癒して。
(……アホか俺は)
 ありえない夢を見てしまうのも、熱のせいなのかもしれない。そうだといい。でなければ……辛すぎる。 己のあまりの罪深さに、自分自身に対し反吐が出そうになる。
「一応、粥を作ってきたのだが。食べれそうか?」
「いや今は……後でもらうよ」
「わかった」
 かたりとベッド脇のテーブルに、小さな鍋を置いたクリスが、ふと幽かに笑ったように見えた。にこり、というよりはにやり、といった感じの、あまり良くない笑みだ。 どことなく不審な気持ちが湧き上がらないでもなかったが、今は勘の鋭さよりも身体の不調のほうが勝った。
「……どうせ今は戦況はさほど変わらないようだからな。ゆっくりと身体を休めておいたほうがいい」
「心配かけて、悪かったかな?」
「……いや。殺しても死ななさそうなあなたでも風邪をひくと分かって、少しほっとした」
「そうか……」
 いつもなら多くの言葉を費やして己の気持ちをごまかすのだが、言葉を紡ぐのも辛い状況ではそうも行かない。ついでに熱に濁った脳では、うかつに言葉を出すと予想外の本音を喋ってしまいそうだった。素直でないクリスの心配する言葉が嬉しくて、『ジンバ』としてはありえない気持ちまで告げてしまいそうな自分が、少し可笑しくなる。
 だから。
「……わざわざありがとな。あんまり長居して風邪移すと、周りの騎士たちに怒られちまうから、もう部屋出たほうがいいぞ」
 咳き込まないよう注意しながら、ゆっくりと告げる。きょとんと瞬きして見つめ返す娘の面差しがどこかあどけなくて、懐かしくて愛しくて……涙が出そうになった。
(ああ、本当に)
 感情の振幅がひどすぎて、自分自身手に負えない。けれどこれも風邪の熱のせいだ。そういうことにしてしまえばいい。
「……見舞い、ありがとな」
「喜んでもらえたなら光栄だ」
 僅かにおどけた口調でうっすらと微笑むクリスの姿を脳裏に刻んで、ゆっくりと目を閉じる。やがて微かな足音を最後に、ジンバの意識はふわり沈んでいった。