[小話]ゆめまぼろし(フリティナ/DFF)

2011/12/14 水曜日

 するり、寄せた肌は不思議な感触だった。汗ばみ、しっとりとした柔らかさと同時に、皮膚の下を流れる熱い血と少しごつごつした筋肉の硬さが感じられる。
 ティナの柔らかい髪に、フリオニールの指がさくりと差し入れられる。幾つもの武器を扱う器用な指だが、ティナに触れるのはまた異なるらしい。こうして熱を分け合うのは初めてではないのに、ティナの髪を梳くフリオニールの手つきは少しまだぎこちない。
 フリオニールの肩口に顔をうずめるような形になっているため、彼の表情は見えない。けれども、きっと今の自分と同じように微笑んでいるような気がした。
 さくり。さくり。触れる指先から、フリオニールの真情が流れ込んでくる。交わされる言葉は無いけれども、偽りの無い心が伝わってくるような気がした。同じように伝わればいいと思いながら、お返しのように、フリオニールの肌をゆっくりとなぞる。
 そこには、幾つもの戦を潜り抜けた証とも言えるのだろう、古い傷跡が残されていた。
「……傷跡、いっぱいあるだろ。気持ち悪くないか?」
「ううん、そんなことない。……その時、わたしが居たらよかったのに」
 自分でも恐れる、自分の中に眠る力。制御できないほどの力は、けれどもただの『力』に過ぎない。むやみに怯えて振り回せば周囲を傷つけるが、傷跡など残すことなく癒すことだってできる。それを教えてくれたのは、フリオニールだ。
 文字通り、生きてきた『世界』が違うのだから、フリオニールの過去にティナが存在することなどありえない。だがフリオニールは、ティナの呟きを夢想だと笑い飛ばしはしなかった。
「……いいな、それ」
 それぞれ違う『世界』から集った戦士たち。口には出さないけれども、戦いが終われば元の世界に戻るのだろうという予感は、二人ともに漠然と抱いている。
 もしも、同じ『世界』で出会えていたなら。もしも、もっと幼い頃から出会えていたのなら。
 もちろん、今と異なる軌跡を描いたなら、今と同じ関係にはなれなかったかもしれない。それでも、いつか必ず訪れるであろう別れに、怯えることもなくなるのだ。
「……もっと早くに出会えててさ。それこそ……そう、子供の頃からとか。そうしたら、ティナの小さい頃、見れたんだな」
 ちゅ、と軽く髪にくちづけられる。柔らかく降り注がれる声には、欲だけではない、もっと切実な熱を孕んでいた。
「ティナはすごく可愛いから、ライバルも多くて大変かもしれないけど。でも、ティナの一番傍でティナを守ることは、オレも譲らないし」
 当たり前のように幼いころからともに育ち、生きていくことができたのなら。同じ夢を見て、同じ時を重ねていけたなら。
 つないだ手を離さずにいられたなら、どれほどしあわせだっただろう。
「……そうね。わたしも、フリオニールの小さかった頃の姿、見たかったわ」
 過去を変えることはできず、未来を紡ぐこともできない。どれほど血を吐くほどに熱望しても、何も得ることはできないのだ。
 それでも、想うことだけはできると、そう信じたかった。

[雑記]生存報告。

2011/11/19 土曜日

生きてます。今のところ。ゴールデンウィークからこっち、仕事の量がちょっとおかしいですが、とりあえずはまだ生きてます。
サイト改装したいなーとか考えてるんですけどね。デザインが昔の800*600だったころのだから、モニタサイズが大きくなった現在、自分のPCから見てもデザイン微妙ですし。
ヒュークリ書きたいです。フリティナ書きたいです。あとロディセシも書きたいです。

時々半端な時間つぶしで遊んでるMaster of Epicの小説も現在進行形で書いてます。あと、えーと、オリジナルの長編もちょこちょこ書いてます。

ちなみに、改装に合わせて、拍手かメールフォームつけた方がいいですかね?誤字脱字の指摘とか、雑記のコメントに投げてくれればいいなぁと思ってたのですが、やっぱり敷居高いかな…。
…まぁ、そもそも見てる人が少ないですけどね!ほとんど自分だけですからね! あとで考えておこう…。

[小話]庭師の恋(フリティナ?/DFF)

2011/5/1 日曜日

「これはなぁに?」
 至近距離からかけられた声音に、フリオニールは文字通り飛び上がった。慌てて声のしたほうへ向きなおると、鮮やかな翡翠の髪が視界に入る。思ったよりも近すぎる距離に、フリオニールの心臓が大きく跳ねた。
「ティ、ティナ様……」
 気づかぬ内に傍に居た少女に、フリオニールはうろたえた。ティナはフリオニールにとって主人の娘であり、親しく話をするような間柄ではない。幾ら主が気さくであろうとも、ブランフォード家は貴族の家柄であり、対してフリオニールはブランフォード家に仕える一介の庭師に過ぎない。
 何よりも。
「ねぇ、これはなにかしら? バラみたいだけど、少し違うのね」
「えぇと……」
 水を潜らせた宝玉のような、不思議に艶やかな瞳にじっと見据えられ、真っ白になった脳内から、懸命に言葉を探る。もともと土いじりに夢中な余り、女性慣れしていないフリオニールにとって、ティナは余りにも美しすぎた。身分差だけでも手一杯なのに、陶器の人形のような少女に対して、何をどう喋ればいいのかさっぱりわからない。
 とはいえ、無視をするのはもっと無礼なことだし、少女の好奇心を満たしてやりたいとも思う。美しく素直で愛らしい少女に対し、その願いを叶えてやりたいと思わない人間など、きっといない。それが擬似的な保護者のような気分か、男としてかはさておき、もちろんフリオニールとて例外ではない。
 飛び飛びになりそうな思考をなんとか立て直して、フリオニールはぎこちなく、僅かに笑んだ。
「これは野ばらですよ。正式な名前は俺も知らないんですが……」
 窓の下に先ほど植えたばかりの植物を、繊細な指先でつんつんと突ついているティナに応える。
 掘り返されたばかりの土から、青々とした茎が健やかに伸びている。ややもすれば野放図に成長するため、温室の植物に慣れた貴族からは風情に欠けると評されることが多いが、フリオニール自身としてはかなり好きな植物だった。頑丈で、たくましく、可憐な花をつけ……甘酸っぱい実を生らせる。お得極まりない植物だ。
「表に植えられたバラとは、ちょっと違うのね」
「あれは園芸品種というか鑑賞用というか……こっちは野生の品種ですから」
「でも、実まで食べられるなんてすごいわ! フリオニールは食べたことあるの?」
「子供の頃に何度か。甘酸っぱくて美味しかったですよ」
 今はもう無い、フリオニールの故郷は野ばらが多く植えられていた。それは貧しい村ならではの工夫だったのだろう。花が咲くとその花弁を摘み取り乾燥させ、茶に混ぜ香りを付けるための嗜好品として売る。実が生ればそれも収穫し、煮詰めてジャムにし、売る。貧しい村にとって、それは貴重な特産品だった。
「そうなの……じゃあ、とっても楽しみね」
「そうですね。実がなったら、ティナ様にも差し上げますよ」
「本当?」
 高揚した気分をそのまま表したかのように、ティナの声音が弾む。するりとしなやかなティナの指が、土に汚れたフリオニールの指に絡みついた。内緒話をするかのように、ひそめられたティナの声音が、耳にくすぐったく響く。
「あのね、笑わないでね? わたし、実はお料理があまりできないの。昔、一度だけお料理してみたんだけれども、セシルに台所を追い出されちゃったの」
「あー……まぁ……それは仕方ないんじゃないですか。爆発、させたそうですよね」
 厨房を取り仕切る、温厚な青年を思い出し、苦笑する。セシルはフリオニールと同じくブランフォード家に仕える料理人で、柔らかい物腰に加え、彼が生み出す繊細な料理の数々は女性の心を掴んで離さないのだとかなんとか。
 常に笑みを絶やさない彼が血相を変えてすっ飛んできたのは珍しかったので、フリオニールの記憶にも残っている。植物の手入れを任されている関係で、薬草の栽培にも携わっているフリオニールのもとに、火傷に効くものがないか尋ねに来たのだ。
 フリオニール含め、何かとティナには甘い屋敷内の使用人たちなのだが、肝心のティナの身に危害が及ぶ可能性があるとなると、話はまた別だ。オーブンを爆発させたティナに、以後台所立ち入り禁止令が出されたのは、フリオニールとしても当然だと思っている。前回は幸い軽症で済んだが、そもそも厨房には危険が多い。それを避けさせようとするのは当然だろう。
 だが、ティナとしては納得がいかないらしい。
「あれはまだ子供だったからだもの。今ならもう大丈夫なのに、セシルはお料理教えてくれないし……だから、ね? もし実が生ったら、セシルには内緒でジャムの作り方を教えてほしいの」
「お、おれがですか?」
「そう! それでセシルをびっくりさせるのよ。楽しそうでしょう?」
 くすくすと笑みをこぼす少女に、フリオニールはつられるように口元を緩めた。
「いいですよ。きちんと覚えてないので、うまくいく保証はできませんが」
「約束だからね? 絶対よ?」
「……勿論です」
 貴族の少女にはきっと、素朴にすぎる味だろう。それでも、ティナが楽しみにしてくれることが、ひどく嬉しかった。

 だというのに。

 降りしきる雨が、フリオニールの体を芯まで冷やす。前髪から滴り落ちる雨粒が、涙と混じり落ちる。
「……」
 美しかった屋敷は焼け落ち、跡形も無い。フリオニールが丹精込めて育てた花々も、無残に踏み潰されている。
「フリオニール、行くぞ」
「あぁ……」
 執事であったライトの言葉に頷いて、フリオニールは硬く目を閉じた。
 約束は、叶わなかった。叶えることは、できなかった。野ばらの花が咲く頃、ティナの美貌に目を付けた皇帝から、後宮へ召しあげるとの使いが来たのだ。一人娘を溺愛していたブランフォード伯は当然の様に拒んだが、抗いきれなかった。
 ブランフォード伯マディンは妻と共に処刑。ティナは皇帝のもとへと連れて行かれてしまった。屋敷には火をかけられ、使用人たちも散り散りになってしまった。
 それでも。
「ティナ様は、取り戻す」
「そうだな……」
 力強いライトの言葉にもう一度頷いて、フリオニールは天を仰いだ。脳裏をよぎるのは、最後に見たティナの泣き顔だ。はにかむような笑顔が何よりも似合う少女だったのに、嫁ぐときはきっと屋敷の誰からも祝福されるのだろうと思っていたのに。
 零れそうな嗚咽を、唇を噛み締めて堪える。嘆き悲しむ時間は、今の自分たちには与えられていない。
 人望の厚かったブランフォード伯爵の処刑により、帝国中が動揺しているような状況だ。皇帝の圧政に対する不満は募り続けていたが、今回が燎原に放たれた火花となりそうだった。
 もしこのままフリオニールが諦めれば、遠からず皇帝は倒され…その寵姫として、ティナもまた民衆に打倒されかねない。手遅れになる前に、せめてティナだけは助けたいというのが、ブランフォード家に仕えていた者たち全ての願いだ。
 ぐ、と手を硬く握りしめて、フリオニールはゆっくりと視線をライトへと向けた。一見、普段と変わらない無表情ぶりだが、その双眸の奥底に瞋恚の焔がちらついているのが分かる。それはきっと、自分も同じだろうとふと思った。
 短く息を吐いて、微かに頭を下げる。
「……ごめんライト、待たせた」
「……まずはスコールと落ち合おう。そこから考えよう」
「あぁ」
 許せるものか。ただその思いだけが、フリオニールを支えていた。

* * *
御月には庭師なフリオニールと料理の苦手なテラが約束をする話がいいと思います!
というフリティナったーより。

[小話]流転の果てに(DFF/フリティナ)

2011/4/4 月曜日

 憎悪。それがフリオニールの中に唯一残っていた感情だった。
 カオスに召喚される前になにがあったのか、覚えていない。だが、大切な何かを理不尽に奪われた痛みだけは残っていた。
 誰に奪われたのか。何を失ったのか。何も残っていないくせに、ただ痛みだけがじくじくと膿んでいる。
 何も覚えていないのなら、憎悪すら残らないほどに忘れてしまいたかった。理由もなく、向ける対象すら不明のまま燻り続ける憎しみは、フリオニール自身すら焼き焦がしそうになる。そのたびに、カオスの宮殿を離れ、適当に破壊衝動を発散させるのが、フリオニールの常だった。
 その夜、コスモスの館に程近い森まで来たのは、単なるきまぐれだ。見つかればそのまま戦闘に雪崩込めばいいし、見つからなければそれでいい。その程度だ。
 適当にふらついていると、不意にぱしゃりと水音が聞こえた。どうやら近くに水場があるらしい。せせらぎは聞こえないので、湖か何かだろう。人か、動物か、それとも違う何かか。人であれば適当に戦いを吹っ掛けてみようかと、そちらに向かって歩き出す。
「……」
 木立の切れ目から見えたのは、鏡のように静謐さを湛えた湖だった。岸に近いところで水浴びしているらしい人影がひとつ、見える。おそらくコスモスの戦士なのだろうが、それにしてはあまりにも不用心だ。幾ら館に近いとはいえ、夜更けにただひとり、しかも寸鉄も帯びずに水浴びなど、殺してくれと言っているようなものだ。
 要望通り血祭りにしてやろうと、一歩踏み出す。刹那、時が止まった。
 湖にいたのは、見たことのない若い女だった。満月の豊かな光が、惜しげもなく晒された裸身に降り注いでいる。緩く波打つ白金の髪が、装身具のように陶磁の肌を彩っていた。美醜には疎いフリオニールでさえそれとわかる、人間離れした整った美貌の中でも印象的な、青紫の瞳が濡れたような光を放っている。
 思うのと、行動するのと、ほぼ同時だった。咄嗟に気配を感じたのか、女が岸辺に置いてあった剣に手を伸ばそうとする。さすがはコスモスに召喚された戦士、ということだろう。
 だが――遅い。くっと笑みを浮かべながら、フリオニールは動きを封じるため、女の手首を握りしめた。強すぎる力に、女の手から剣が零れ落ちる。そのまま、勢いよく引き倒しながら、素早く体を入れ替える。衝撃に女の表情が一瞬歪む。
 岸に押し倒された形になりながらも、女の眼差しには怯えも恐怖も浮かんでいなかった。瑠璃を水で溶いたような瞳が、まっすぐにフリオニールを映し出す。濁りの無いまなざしに、ぞくりと背中に震えが走る。花の香りに似た、けれどもっと透明感のある香りがして、脳が痺れそうになる。
 見つけた、と思った。それが真実かどうかは、どうでもいいことだ。自分がそう思った、それだけで十分だった。自分が探していたのは、きっと、コレだ。これを喪ったのだ。
「……」
 鮮やかに色づいている、女の唇が誘うように震える。悲鳴をあげるのか、それとも自分を罵るのか。あるいは逃がしてほしいと懇願するのか。そのどれであってもおもしろそうだった。
 だが、女の取った行動は、フリオニールの予想のどれをも裏切った。
「……荒ぶる……」
 轟、と風が鳴る。迷っている暇はなかった。水底を強く蹴りつける。
「風たちよ……!」
 女の力に呼応して、すべてを切裂く刃の嵐が産み落とされる。咄嗟に女から距離を取らなければ、フリオニールの体はずたずたにされていたに違いない。避けきれなかった風の刃がかすめていったらしく、頭に巻いていたバンダナの切れ端が、風に乗ってふわり舞う。
「いいな、アンタ」
 気に入った。容貌も、まっすぐにこちらを見つめるまなざしも、その強さも、何もかもが気に入った。気に入ったからこそ……今ここで戦ってしまうのは、もったいない。もっと時間をかけて、じっくりと楽しみたいと思った。
 何度も彼女を見て。何度も彼女の瞳に自分を映させて。幾度の邂逅を経て……そうして、彼女を自分の手で殺す。
 そうでなければ、意味がない。
「名前は?」
「……ティナ」
「そうか。俺はフリオニール」
 フリオニールの意図が掴めなかったのだろう、ティナと名乗った女の眼差しが戸惑うように揺れる。浮き立つような気分のまま、フリオニールはくつりと笑みをこぼした。
 ティナの意思など関係ない。自分が決めたことに、自らの力で物事を動かすだけだ。
 だから。
 手にしたリボンをひらり振ってみせる。彼女から距離を取る際、ついでに失敬したものだ。いかにも彼女の髪に映えそうな、淡い色合いのリボンがふわりと風に揺れる。見せつけるようにそれに口づけながら、フリオニールは告げる。
「俺が殺すまで、他の誰にも殺されるなよ?」

 あるいは、彼女に殺されるその日が来るまで。

***
「輪廻」の続編。

[小話]輪廻(DFF/フリティナ)

2010/12/9 木曜日

 突き付けた刃の切っ先から、僅かに鮮血が滴り落ちた。迷いは無い。けれども、彼の咄嗟の反応が早かったのだろう、薄く皮膚の表面を切り裂いただけだった。
 まだ、浅い。
 鈍く光る刃の向こうで、青年が目を瞠るのが見える。普段から無表情であまり感情を表には出さない彼だけれども、僅かに見開かれた双眸に驚愕が滲んでいるのがわかった。
 わかるぐらいには、ともに時を過ごしたのだとちくり胸が痛む。ともに背を預け、敵と戦い、笑いあい……そうやって過ごしてきた、掛け替えの無い仲間だ。自分が剣を向けるなどと、夢にも思わなかったのだろう。無口ゆえに誤解されやすいけれども、彼は確かに『光の戦士』の称号に相応しい、まっすぐな気性の人だから。
 それでも。
「……フリオニール……」
「……で、くれ……」
 呆然と自分の名を呟く彼に、掠れた声で願いを告げる。
 仲間も大事だ。そこに偽りは無い。けれども一番大事なのは――腕の中から少しずつ奪われるぬくもりだけだった。腕の中に抱え込んだ華奢な肢体も、ふわり流れ落ちる柔らかな髪も。生きているようにすら見える美しい彼女は、けれどもう二度と微笑まない。銀の鈴を振る声音で名を呼んでくれない。命を喪った彼女は、やがて時と共に土くれへと還ってしまうのだろう。
 だから。
「……死んでくれ」
 きっと、目の前の青年はただひとりとなっても、心折れることなく最期まで剣を振るい続けるのだろう。それは『光』を掲げるものとして正しい行動だ。その彼と共に、戦い抜くことこそが生き残った自分のやるべきことなのだと、フリオニール自身わかっている。そしてティナもそれを望んでいると。
 命を奪うことに、戦いに臆病だった彼女だから。最期まで諦めずに生きる努力をして欲しいと。
 フリオニールの行動は、ティナに対する裏切りだ。それでも、願うのは。
「あなたで最後なんだ」
 光と闇。混沌と秩序。残酷なこの世界は、終わりを赦さない。決着がつけば輪廻が訪れ、再びの戦いが始まる。巡り廻され続ける運命の環、それは裏を返せば、『決着さえつけば』もう一度戻れるということだ。
 彼女が――ティナが、生きている世界に。
「……あなたが消えてくれれば……」
 傍に居られなくても構わない。誰かのためではなく、ただ自分自身の私欲のためだけに剣を振るい、仲間を殺める自分が、『次』も光の側に立つなどありえない。もし『次』、ティナとあいまみえるとするのなら、敵同士、刃を交えるその瞬間だけだろう。
 けれど、それで十分だ。彼女の眼差しに射抜かれ、刃に貫かれ息絶えるのであれば、きっと悪くない。少なくとも、彼女の亡骸を此処に置いて戦い抜くという、無意味な生よりはよほど。

 ただ一度の邂逅のためだけに、フリオニールは正しく終焉を願った。

* * * * *

某サイトさまで拝見したフリティナ漫画にものっそい衝撃を受けて勝手にノベライズ。すみませんすみませんすみません。

[小話]らぶ・あくしょん!

2010/4/14 水曜日

 鏡の中にはひとり、見慣れない顔で見返す女がいた。長くまっすぐで癖の無い銀髪は今はおろされ、さらりと肩を流れ落ちる。うっすらと施した化粧は、すっきりとした目鼻立ちに仄かな色香を添えていた。我ながら悪くは無いと思う。
 思うのだが。
「……ううぅ」
 どうにもこうにも気恥ずかしくて、クリスは低く唸り声を上げた。鏡に映る自分の姿をこれ以上直視できず、すいと視線をはずす。
 今クリスが身に纏っているのは、常の銀の鎧でなければ橙の騎士衣でもない。もちろん若草色の旅装でもない。クリスを肢体を包んでいるのは、ゼクセンでこの夏流行した、ありふれた……それだけにこれまでクリスが着ることの無かった、ごく普通のワンピースだった。薄い蒼のワンピースに合わせて、肩にかけた淡い桜色のショールは文句なしにクリスの端正な容姿を引き立てているのだが、肝心のクリス自身はこうしたものを着慣れておらず、面映いような、むずがゆいような気持ちを抑えられないでいた。
 まるでいそいそと逢引に出かけるお嬢さんたちのようだ、と思って、クリスは深々とため息をついた。それはまさしく、今の自分のことではないか。
「早まっただろうか……」
 僅かに後悔を滲ませて、クリスはがっくりと項垂れた。パーシヴァルの冗談を真に受けてしまった己の浅はかさが悔やまれる。
 五行の紋章戦争後、ゼクセン騎士団は少しずつその在り様を変えつつある。今でも騎士団は国防と国内の治安維持、その両方を担っていたのだが、最近は前者の比重が軽くなってきている。もちろんいざというときに備え、時折大規模な演習も行われることがあるが、ビネ・デル・ゼクセをはじめとする街の巡回警備や、夜盗退治のほうに力を入れている。
 グラスランドとの戦は正式には終わったわけではないが、小競り合いさえ起きていない現状としては、実質終了したものとみていいだろう。そのような時期に、下手に軍備増強を図ってると疑われるような真似は避けたほうがいい、というのが誉れ高き六騎士全員が一致した意見だった。また並行して、評議会に対してグラスランドとの停戦条約を結ぶよう働きかけている最中でもある。好戦派とも呼べる一派のほとんどが、ハルモニアとの内通によって力を失ったこともあり、現在条約の文言を細かく推敲する段階にまで来ている。
 そんなこんなで、最近のクリスはビネ・デル・ゼクセ勤めが増えてきていた。評議会との会議には、やはり正式に団長に就任したクリスが出席するのが妥当、ということもある。そのため、今日も今日とてパーシヴァルを供に、ビネ・デル・ゼクセに戻ってきたのだ。
『クリス様も、たまにはお洒落をしてヒューゴどのを驚かせてみてはいかがですか?』
 その話が出たのは昼食時、ビネ・デル・ゼクセで流通しているものについての話だったか。
 戦の気配が急速に遠のいたせいか、このところビネ・デル・ゼクセを訪れる商人は増え続けている。流れ込んでくるものが、食料や武器・防具のみならず、色とりどりの衣服や装飾品など必需品ではないものまで多岐に渡っているのは、取りも直さず平和の証だろう。そして、真っ先にそれら嗜好品に飛びつくのはたいてい若い女性たちで、思い思いの工夫をこらして恋人と語らう女性たちの姿を、このところよく見かけるようになっていた。
 クリスにとって必要なのは、そうした事象から読み取れる状況だけだ。わが身に置き換えて考えるような出来事ではない。
 だが。
『……そうだな』
 茶化すような、からかうようなパーシヴァルの言葉に笑みとともに曖昧に答え、それで終わったはずの話を、クリスは珍しくその後も気に留めていた。
 クリスとヒューゴは恋人同士とはいえ、そうそう気軽に会うことはできない。互いに忙しい日々を送っていることもあるが、二人の間に横たわる距離も大きく、ただのヒューゴとクリスとして二人きりで会える時間というのは貴重だった。恋人としてゆっくり会えたときはそれだけで幸福で……クリスの中から、お洒落をするとか凝ったシチュエーションを考えてみるとか、そういった事まで気を回す余裕はなく、今まですっぽ抜けていたのだ。
 だから、だろうか。
 パーシヴァルとの会話をなんとなく気に留めていたクリスは、仕事のあとなぜか服屋に寄り、店員に薦められるままワンピースとショールを購入し、帰宅後着替え――現在我に返り途方に暮れている、という状況だった。
「……しまった」
 階下の居間においてある時計がぽおんと小さく鳴るのが聞こえ、クリスは小さく舌打ちした。今日はヒューゴがビュッデヒュッケ城に出向いているため、互いの仕事終わりに合わせてビネ・デル・ゼクセで会おうと約束していたのだが……その刻限までもう幾らもない。今からまた着替えて向かうとなると、ヒューゴを待たせてしまうことは確実だった。諦めてこのまま行くしかないだろう。
 いつものように愛用の剣を持っていこうと、机の上に置いた剣に手を伸ばしたクリスだったが、暫く躊躇ったあとその手を引っ込めた。
「……どうせだからな……」
 小さな苦笑とともに、代わりに護身用の小さな短剣を手に取る。どうせ普段と異なる格好をしているのなら、とことんまで『普通のお嬢さん』のように振舞ってみるのも一興だろう。普段と違う自分に、ヒューゴは驚くか笑うのか、クリスには予想はつかないけれども、その反応を見るのもまた面白そうだった。
「行ってきます」
 そうしてクリスは、ワンピースの裾をひらりと舞わせながら、灯りが照らし出す街並みに飛び出したのだった。

[小話]余計なお世話

2009/2/19 木曜日

 ぎしり、と床板を踏む音に、ザックは弾かれたように振り向いた。
「……どうしたの、ザック?」
「え、いや……まぁ、な」
 気心の知れた仲間の姿がそこにあったにも関わらず、ザックの表情はますます強張った。動揺のあまり、ザックの返答は胡散臭い事この上ないものになったが、ロディのほうはいつも以上にぼんやりしているらしく、いぶかしむ様子さえ見せなかった。よほど眠いのか、あるいは昨晩の慣れない酒がまだ残っているのか。どちらにせよ助かったことに変わりはない。何とか平静を取り戻し、さらりと話題を変える。
「そういうお前こそ、どうしたんだ? 起きるにゃまだ早い時間だろうが」
「そうなんだけどね……」
 ザックの問いに、ロディはへらりと笑みを浮かべて見せた。元来温和で覇気があるとは言い難い少年ではあるが、今朝は尚のこと緩んでいるようにも見えた。
「何か、腹の中がムズムズしてね。一度起きちゃうと寝れそうになくなっちゃってさ」
 一瞬、勘付かれたか、とひやりとした感触が心の表面を撫でる。だがすぐに、いや、と心中で訂正を加えた。おそらくロディは、昨夜の宴会で体調が落ちていることを言っただけだろう。普段飲み慣れていない人間が、時折場の雰囲気に呑まれ酒を多めに飲んでしまうと、腹具合がおかしくなるなんてのはままることだ。逐一過度に反応すれば、かえって怪しまれかねない。
「ザックはどうしたの? さっきまで飲んでたとか?」
「まあな」
 これ自体は嘘ではない。だが。
「……もしかして、セシリアも一緒に?」
「んなわきゃないだろーが。あの姫さんだぞ、俺と一緒に夜通し飲むとかってありえんだろ」
「そうだよねぇ」
 実はその『あり得ない事態』が起こっていたのだが、ロディはほわんとした表情であっさりザックの言葉を首肯した。
「どうせこんな時間だし、寝る前にちょっと散歩しようかと思ってな」
 ほっとした反動か、聞かれてもいないのに宿兼酒場の扉前に居る理由を思わずでっちあげてしまって、ザックは内心頭を抱えた。早朝散歩だなんて今まで一度だってやったことが無いことを考えれば、いかにも怪しすぎる。だが、物凄く幸いなことにロディのほうはそこまで考えが及ばないようだった。
「あー、いいんじゃないかな。多分良く寝れるようになるよ、きっと」
 お人よしなロディの素直な受け答えにほっとしつつ、同時にどっと疲れを覚える。さすがに夜通しだらだら飲んで、仲間に心にも無い嘘をつかねばならない状況は、思ったよりも自分自身につらいらしい。普段のロディやセシリアが居たら、容赦なく突付かれボロを出すに違いない迂闊さを露呈しまくっている。
 本当は、ちょうどここでセシリアを見送ったのだ。アーデルハイドの女王となるため旅立つセシリアと、最後の別れの言葉を交わしたのは、つい先ほどのことだ。再びの邂逅を約束し扉を閉め、ため息をついてさあ戻ろうかと思った瞬間にロディの足音がしたときは、本当にどうしようかと思ったが……ザックにとっては運がいいのか悪いのか、どうも単純な偶然の産物のようだった。
「なんか、俺たちがこんな朝顔合わすのって珍しいな。ザックはいつも寝坊するし。普段一番早起きなのはセシリアだけど」
「……そうだな」
 興味の無い風を装い、ザックはことさらそっけなく応えた。
 セシリアがもうこの宿には居ないことを、ロディは知らない。ロディだけが、知らされていない。
 それを薄情と評することは、ザックにはできない。セシリアの葛藤は痛いほど伝わっていたし、仕方の無いことだと理解もできることだった。別れを告げなかったのではない、大事で大切で……だからこそ、告げることさえできなかったのだ。
 セシリアのその気持ちを思えば、急げばまだ追いつける今、ロディに不審を抱かれるような挙動は慎むべきだ。ましてや自分からセシリアの不在を教えるなど、彼女の葛藤も決断もまるっと無視した、余計なお世話だ。
 だが。――それでも。
「流石にセシリアはまだ、寝てるよね」
「……」
 迷ってしまうのは、ザックだけが気付き、セシリアも……ロディ自身でさえも気付いていないからだ。もうここを去ってしまった彼女の話になると、ロディの声が甘く響くことを。愛しそうに……まるで大切な宝物をそっと掬い上げるかのように、優しい声音で彼女の名を紡いでいることを。
 だから。
「気になるなら、姫さんの部屋にでも行ってみたらどうだ?」
「え、い、いや、そんな……」
「姫さんのことがどうでもいいってなら、俺も無理にとは言わんけどな」
「や、どうでもいいってわけでもなく」
 それなりに年頃の少年らしく、咄嗟に寝乱れたセシリアの姿でも想像したのだろう、即座に顔を真っ赤にしたロディがばたばたと手を振った。外見相応の素直な……それだけに不審な反応に小さく苦笑して、ザックは念押しをひとつしてみる。
「なんだったら、早朝デートにでも誘ってみちゃどうだ? 姫さんも喜んでくれるかもしらんぞ」
「で、ででデートって……」
「まぁ、今日は一応予定ないしな。俺はこれから一眠りするから、お前らはお前らでやってくれ。じゃあな」
「あ、うん、わかった」
 素直に頷いたロディに背を向け、ひらりと手を振ってみせる。
 これはきっと『いらぬお節介』に含まれる言動だろう。セシリアの予測では、今日は予定が無いため、昼……運がよければ夕食の時間まで、不在に気づかれないとの思惑だったはずだ。だがザックのけしかけによって、ロディは遠からず行動を起こすだろう。朝食に誘う計画でも立てているかもしれない。そして、外からどれほど呼びかけたとしても返事が無い不自然さに、気づくかもしれない。
 必ずそうなるという保証は無い。ましてや、セシリアが居ないことを知ったあと、ロディがどのように行動するかはもっと分からない。
 ただ、自分は彼らの未来が少しでも幸せなものになるよう、祈るだけだ。賽はもう投げられたのだから。
「おやすみ、ザック」
「あいよ、おやすみ」
 異変に気づいたロディによって、すぐさまたたき起こされることを願いながら、ザックは宿の二階へと姿を消したのだった。

[雑記]生存報告。

2009/2/1 日曜日

とりあえず生きてます。ちゃんと。

ネトゲやったりネトゲ小話書いたりそっちの二次創作書いたり、オリジナル長編に取り組んだり、いろいろやってます。

 

余談になりますが、拍手取り外しました。
投稿されたコメントが2週間で保存切れるというのが地味に痛かったので。
誤字の報告やご感想あればこちらにぶん投げてください。すみません。 

[小話]束の間の逢瀬

2008/9/12 金曜日

 りりり、りりり、と虫の音が鳴る。鈴を振るかのようなその音は草原をひそやかに渡ってゆく。まったくの静寂は緊張をもたらすが、ほどよい大きさの雑音は緊張を解きほぐしてくれる。クリスと二人、草原で寝転んで空を見上げながら、ヒューゴはぼんやりとしていた。
 本当ならもっと話をしたいことがたくさんあった。徐々に復興を遂げつつあるカラヤの様子だとか。村の端にある墓地には、ジンバの遺品が眠っているのだとか。そうして、ルースがいつも丁寧に掃き清めているのだとか。
 ……そして、ルースがヒューゴに、「クリスにとっても父親なのだから、遠慮せずに来てほしいと伝えてくれないか」と何度も言っていたとか。
「……」
 けれどどの言葉もふさわしくないような気がして、ヒューゴはただただぼんやりと夜空を見上げる。手を伸ばせばすぐに届く距離で、クリスも同じように寝転んでいる。
 群青の帳に、今にも降ってきそうなほどたくさんの星が瞬いている。ヒューゴにとっては見慣れた夜空だが、商業の街として夜でも明かりが灯っているゼクセンで過ごしてきたクリスにとっては、驚きだろう。息を呑んで見入っているのが気配ではっきりと分かる。
 だから。
「……」
 何もせず、ただ同じ星空を眺めるだけ……それだけの、同じ時間と空間とを共有できる喜びを胸に、ヒューゴは幸せなため息をついたのだった。

[雑記]復帰。

2008/8/7 木曜日

一時期PCがどーしよーもなく壊れるというトラブルに見舞われましたが、ようやく復帰した御月ですこんばんは。

あれやこれや環境の整備も7割がた終わり、ようやく本腰入れていろいろ取り掛かれそうです。
とりあえず、ブログをかけるようになっただけでも十分というか…
パスワードの保存場所がわからず、かなりあせったので。

 

シャドウハーツ取り扱い始めました。
基本的にウル×アリス前提。今ちょうどやっているので、それにあわせて進んだり進まなかったり。
グッドエンディング目指していく予定です。

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